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妊娠糖尿病とは
私たち人間の体は膵臓から分泌されるインスリンというホルモンによって、血管内の糖(血糖)を適切な量に調整しています。妊娠糖尿病は妊娠中に膵臓からのインスリン分泌が相対的に不足し、高血糖状態になる病気です。通常の血糖値より高い状態が続くと母体と胎児の両方に悪影響を及ぼします。
発症率は人種や地域、年齢によって異なりますが、おおよそ7~9%の妊婦が妊娠糖尿病と診断されると言われています。
妊娠糖尿病の原因
妊娠中は胎盤から分泌されるいくつかのホルモンの影響で、母体のインスリン抵抗性(インスリンの効きにくさ)が生理的に高まります。
具体的には以下のホルモンが関与しています。
- プロゲステロン:黄体から分泌される妊娠の維持に重要なホルモン。インスリン抵抗性を高める働きがある
- エストロゲン:主に胎盤から分泌され、プロゲステロンと同様にインスリン抵抗性を高める
- プロラクチン:胎盤と母体の下垂体(脳の器官)から分泌され、インスリン分泌を抑制する働きがある
- ヒトプラセンタラクトーゲン(HPL):胎盤から分泌されるタンパク質ホルモンで、強力なインスリン拮抗作用がある。
これらのホルモンが妊娠中期以降に濃度が高まると高血糖状態、つまり妊娠糖尿病が発症するのです。また遺伝的な要因や過度の肥満、高齢出産なども妊娠糖尿病のリスク要因となります。
つまり妊娠そのものに伴う一時的なインスリン抵抗性の高まりと、個人的な要因が組み合わさることで妊娠糖尿病が起こるというわけです。
妊娠糖尿病の診断と予防
妊娠中の定期検査で血糖値の異常が疑われた場合、75g経口ブドウ糖負荷試験が行われます。10時間以上の絶食後に75gのブドウ糖を飲み、飲む前、飲んで1時間後と2時間後の血糖値を測定します。一定の基準値を超えた場合に妊娠糖尿病と診断されます。
妊娠糖尿病の予防のためには妊娠前から適正体重を維持し、バランスの良い食事と適度な運動を心がけることが重要です。過度の体重増加を避け、空腹時や食後の血糖値上昇を抑えることが予防につながります。
妊娠糖尿病の治療
治療の基本は食事療法と運動療法により、血糖値をコントロールすることです。食事療法と運動療法を組み合わせて行いますが、それでも十分な血糖コントロールが得られない場合は、皮下注射によってインスリンを投与する治療が必要になることがあります。
食事療法
- 総摂取カロリー量を適正に保つ
- 炭水化物の量を控えめにする
- 繊維質の多い食品を選ぶ
- 食事時間や量を決め、規則正しい食生活を心がける
運動療法
- 有酸素運動を中心に、軽い強度の運動を行う(例:歩行、水中運動など)
- 1回20~30分程度を目安に、可能な範囲で毎日行う
- 過剰なストレスを避け、無理のない範囲で行う
妊娠糖尿病の赤ちゃんへの影響
妊娠糖尿病により母体の高血糖状態が続くと、お腹の中の赤ちゃんにも悪影響が生じます。具体的には以下のようなリスクが高まります。
巨大児リスク
母体の高血糖が続くと胎児に過剰なブドウ糖が供給され、過剰な発育による巨大児になりやすくなります。巨大児で経膣分娩をする場合、児頭よりも体幹が大きくなり肩が娩出できなくなる肩甲難産のリスクや、産道での圧迫による頭血腫、頭蓋内出血、上腕神経麻痺、鎖骨骨折などのリスクが高まります。
低出生体重児リスク
過剰に血糖コントロールを行ってしまうと逆に胎児への糖分供給が不足し、低出生体重児になるリスクがあります。
先天異常リスク
高血糖環境下では奇形や先天異常、特に神経管欠損症のリスクが高まります。
低血糖リスク
過剰なインスリンが胎盤を通って母体から赤ちゃんへ移行するため、出産直後に新生児低血糖になるリスクがあります。
出産後の糖尿病リスク
妊娠糖尿病になった方のうち、大半の方が出産後は血糖値が正常に戻ります。しかし、将来的に2型糖尿病を発症するリスクが高まるため、出産後も適切な生活習慣を継続し、定期的な検査を受けることをおすすめします。